上智大学・ソフィア会 共催講演会
加賀前田家「人は一代、名は末代」
2026年10月14日
2026年10月2日、上智大学2号館17階1702教室で、上智大学とソフィア会共催により、加賀前田家第19代当主、 ㈱イノダコーヒ代表取締役社長 前田利宜(としたか)氏(1987外葡)をお迎えし、スペシャル講演会を開催しました。
当主であり、社長であり、金沢と京都、東京を行き来する大変お忙しい中、ご無理を申し上げてお越しいただきました。参加者の募集を開始してから3週間で定員に達してしまい、ご参加がかなわなかった方が多数いらっしゃったこと、改めてお詫び申し上げます。
講演会委員長で司会の岩崎由美さんから、今年2026年4月、東京国立博物館で「前田育徳会 創立 100周年記念 特別展 「百万石!加賀前田家」が 開催されたことなどが紹介され、スタートです。
<上智大学・ポルトガル語学科を選んだわけ>
前田さんは、お父様の仕事の関係で1977年から 82年までブラジルのリオデジャネイロに住み、ポルトガル語で生活をしていた時期がありました。そのため「上智大学のポルトガル語学科を受験すれば浪人をせずにすむ」と考えて受験したのだとか。大学時代はヨット部で年間180日は合宿生活だったそうです。
卒業後、三菱商事に入社。食品第二部コーヒーチームに配属され、ブラジルやサウジアラビアなどで海外駐在を経験。その後、三菱グループの食品専門商社の代表取締役に就任。2020年から、京都の老舗コーヒーチェーン、株式会社イノダコーヒ代表取締役社長に就任されました。2023年には前田家19代当主となられ、現在は公益財団法人徳川黎明会理事、公益財団法人前田育徳会理事など数々の要職を兼務されています。

<加賀前田家450年の歴史と責務を背負い>
NHKの大河ドラマ「豊臣兄弟」にも登場している前田利家を初代に、前田家は金沢を本拠地に百万石大名として、明治維新に至るまで領国統治を行いました。廃藩置県で東京へ移り侯爵を授与、 1947年に華族制度は廃止されましたが、約450年経つ今も家督は脈々と受け継がれています。
「前田家はその間3度勝ち馬に乗りました。1つ目は賤ヶ岳の戦い。 2つ目が関ヶ原の戦い。3つ目が明治維新。この3つを乗り越え、生き延びることができました」と前田さんは言います。「明治維新後は兼六園や現在の東大本郷キャンパス、駒込、板橋といった江戸屋敷など、多くを没収されましたが、華族の一員として迎えられ侯爵という爵位をいただけたおかげで続いてこられたのかなと思います」(前田氏)。
「しかし戦後日本は農地改革や財産税、預金封鎖などがあり前田家も大打撃を受けました。財産の約 9割を没収されたと言います。自分の家族と家は自分で守り、自分で稼いでつなげていくという時代に入り、それから前田家のサラリーマン生活が始まります。父・利祐がサラリーマン初代で、私が 2代目、息子が 3代目というわけです」(同)
「『人は一代、名は末代』という言葉は藩祖の利家公が言ったと伝えられています。人生 100年と言われていますが、一体何才まで生きるかわかりません。しかし前田家はこれからも続けていかないといけない。こういう宿命、責務が私には課せられている。この言葉は私の心の拠り所です」(同)。

<歴代当主が守り継いできた文化財を未来へつなぐ>
上野での「前田育徳会 創立 100周年記念 特別展 『百万石!加賀前田家』」は前田育徳会という財団が創立100周年を迎えたことを記念して開催されました。100年前に16代利為(としなり)公が関東大震災の惨状に直面し、文化財保全の必要性から今の公益財団の前身である育徳財団を創設したそうです。
「個人で持っていると散逸してしまう、国の管理下におくことで、収蔵品が守られるだろうという判断があったと聞いています。駒場には財団と収蔵庫があり、収蔵品は約 3万点、そのうち重要文化財が 77点、国宝が22点です」(同)。
しかし当主でもフラッと行って見ることはできません。
「展覧会では黄金の鯰の甲冑(かっちゅう)や陣羽織、国宝の刀など、どれも初めて見たものばかりです。一番驚いたのは標本『百工比照(ひゃっこうひしょう)』 本当によくぞ残したなという感じです」(同)。
3代利常は書画や舶来の文物の収集に力を入れ、その蔵書量は「天下の書府」と称され、5代綱紀は全国の工芸技術を見比べる標本「百工比照(ひゃっこうひしょう)」を作らせました。
「今後、前田家の当主として何を守っていくのか、どうやってそれを継承していくか。今までに集められてきた収蔵品(コレクション)を財団とともに維持・管理、調査研究、公開をしていくのが当主の一つの責務だろうと思っています」(同)。
歴代当主が守り継いできた文化財の価値を広く伝えることがいかに大切かを認識していると語られました。展覧会に伺いましたが、どれも豪華絢爛、まばゆいばかりの宝物の数々です。その美しさに立ち尽くし、どれだけ時間があっても足りませんでした。守り続けてきてくださったことに、感謝の気持ちで一杯です。


▲「前田育徳会 創立百周年記念 特別展「百万石!加賀前田家」
2026年4月14日~6月7日東京国立博物館で開催された展示風景
特別な許可を得て撮影しています。
<前田家とイノダコーヒの未来>
「2020年イノダコーヒの社長になった当時はコロナ禍で、翌年の 3月の決算期はおそらく創業以来初めての赤字だったと思います。マイナスからのスタートでしたが、時代が戻ればお客さんも戻って来てくれるのではないかと感じていました。イノダコーヒは、2度にわたる M&Aを経て、今はキーコーヒーが親会社、我々は売上が約20億円、従業員は約200名います。従業員とその家族を守るのが、いまの私の使命でもあります。現在、京都に6店舗、東京、横浜、広島に各1店舗で総店舗数は9店舗ですが、今後、13店舗には増やしたいと考えていますが、店をあまり増やしても提供するコーヒーの味、サービスをどの店でも守り、お客様からいいねと言われる部分をどれだけ増やせるかだと思います。ぜひ京都にお越しいただきイノダのコーヒーを味わっていただければと思います」。
前田家当主として家や文化財を、イノダコーヒ社長として会社の従業員とその家族を。受け継がれるものと変わりゆくもの。450年の歴史を背負いながら未来を展望する姿は、私たちには計り知れない重さがあるに違いありません。
講演後には、「歴代の当主の中でリスペクトしている人は?」「代々続く家に生まれて良かったこと、良くなかったことは?」「前田家当主と社長業のバランスは?」「能登の復興支援について」「気候変動でコーヒーベルトが変わってくるが、その対策は?」など多岐にわたる質問が相次ぎました。前田さんのユーモアあふれる、優しく温かいお人柄が伝わる講演会となりました。
文責 ソフィア会 講演会委員 手島真理子(1973文仏)
ソフィア会講演会委員長 岩崎由美
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