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ドナル・ドイル先生講演会開催報告

2019年05月17日

 平成から令和へ時代が変わるための前代未聞の十連休直前の金曜日、上智大学2号館17階で、ドナル・ドイル先生の講演会が開かれました。題して「ドイル先生、六十年をふりかえる」。

「本日の講演は満席の予定です」と司会の岩崎由美さんのアナウンスに続き、上智学院佐久間勤理事長のご挨拶があり、神学院でドイル先生の指導をお受けになったというエピソードが語られました。
 ソフィア会戸川宏一会長は、開口一番「これまでの講演会で、ここまで満席になったのは初めてです」。そして上智大学創立100周年記念のヨーロッパ巡礼旅行の、ローマでの思い出を話してくださいました。「ちょうど教皇の選出、コンクラーベが行われており、毎日黒い煙を見てもう諦めた最後の朝、ようやく白い煙が出たとき、ドイル先生が『決まりましたよ!しかもイエズス会士です!』と、普段の穏やかな様子とは違い興奮して、でも本当にうれしそうに知らせてくださったのです」。
「秋に開催された創立100周年記念のサントリーホールでの上智大学管弦楽団OBと特別合唱団の演奏会のときはご来賓皇太子殿下(当時)のお隣にはドイル先生しかいない、ということでお願いしました。演奏曲目についての解説など、お話しいただいたおかげで、皇太子様にはご満足いただいた様子で、最高の笑顔でお帰りになったのです」。
 ドイル先生は上智大学やソフィア会にはなくてはならない素晴らしい神父様であることをお二方がご紹介くださいました。
 登壇なさったドイル先生は、まずこんなお話から。
 「そうですね。60年。いつもこう訊かれることから始まります。『神父様、日本に来てどれくらいですか?』『60年ですよ』というと、次にはこうです。『どうして日本にいらっしゃったんですか?』私はいつもこう答えます。『あなたに会うために来ました』」 「結婚式などでもよく話すのですが、自分のユニークさに気づいてほしい。ただ一人のあなた。もう一人のあなたは、いません。日本人はグループで行動することが多いけれど、あなたはユニークな存在なのです。そして一人の人間としては、ミステリアスです。それも大事なことです」。
「サン・テグジュペリの『星の王子さま』の一節を思い出します。『大切なことは目では見えない』心で探さなくては。その時に、インナー・ヴォイス、内なる声があるはず。それを聴かなくてはなりません」。

 この日のために綿密に準備してくださったたくさんの写真を紹介しながらお話が展開しました。
「まず、有名なロバです」(笑)。今回の講演のチラシにも使われた、ロバと一本の道。 「この道は曲がっていて、その先は見えません。一人で歩く道。何が待っているのか......。」ドイル先生がアイルランドで撮られたお写真とのことですが、映画のポスターのように多くを語りかける素敵なお写真でした。
 ご家族と立派なお家のお写真。アイルランドでのご両親、お姉様、弟様、妹様。お父様はお医者さん。幸せなご家庭で愛情深く育てられた様子がよくわかります。しかしイエズス会に入り、海外に派遣されるにあたり、指示された国とは別に、聖フランシスコ・ザビエルゆかりの日本に行きたいと願い出たところ、あっさりと許可されます。もう二度と会えない、という覚悟の上でご両親様とお別れをして60年前に日本にいらっしゃった経緯を伺いました。今とは違ってまったく情報のない遠い遠い極東の国に、アイルランドからいらっしゃったドイル神父様でした。帰国されたのは、お父様が帰天された時。お母様にはお悲しみの中にもどれほど慰められ、お喜びになったかと思います。お姉様は聖心会のシスターに、弟さんは歯医者さんになられたとのこと。「でも、お金をあまりとらない歯医者でした」(笑)。

 ドイル先生は、日本ではまず栄光学園、広島学院で教鞭をとり、そのころのお写真もたくさん。若いころは映画スターよりもハンサムで驚きました!広島学院の教え子さんは毎年先生のお誕生日のお祝いをなさるそうで、今年の米寿のお祝いの写真も。
 講演会には先生の60年の足跡そのままに、いろいろな「教え子」さんたちが全国から集合、お写真が紹介されるたびに、あちこちで小さな歓声が上がっていました。ドイル先生が、いろいろな立場の方を想って写真を選んでくださったことがよくわかることでした。
 その日は平成最後の金曜日でしたが、天皇陛下が英語でスピーチをなさる折には宮内庁からの依頼で協力なさったとのお話は特別印象的でした。急を要するときも、ドイル先生は皇居に赴き、丁寧に真心こめてご対応なさり、宮内庁からも信頼され、皇室ともずっとご交流が続いているとのこと、本当に誇らしいことです。天皇陛下がイギリス留学から帰国されたとき、日本で窮屈な生活になられたのではと心配され、1号館講堂で上演された「真夏の夜の夢」の演劇にお招きしたときの1枚は、陛下と先生の絆が感じられました。美智子皇后(現・上皇后)さまからの直筆クリスマスカードは「30枚あります」と密かに見せてくださいました。
 写真は、マザーテレサ、ピタウ元学長、そして髙祖前理事長とフランシスコ教皇との3ショットも!(実はこの教皇様はなんと実物大の写真パネル。海外旅行でのひとこま、先生のユーモアあふれる説明に会場が笑いに包まれました)。

 そのあとの懇親会は、当初予定された会場では入りきらないため、急きょ13号館に設定されました。そこでドイル先生は「今日は本当にありがとうございます。感動しました」と、涙でお声をつまらせながら喜んでいらっしゃいました。懇親会では会場をまわり、ひとりひとりと握手をしてくださいました。その握手の秘密も明かされました。
「握手といって思い出したのですが......。ちょうど、アメリカのケネディ大統領に呼ばれていたのだけれど、その直前に弟のケネディ議員が飛行機事故で亡くなり、悲しみの中、大統領を待つ形になりました。そこで大統領は私に握手をしてくださったけれど、それはそれは、温かく、素晴らしい握手だったのです。あの握手は忘れられません。その後すぐに、大統領は暗殺されました。素晴らしい方でした」。

 ドイル先生の今日まで88年の人生にはさまざまな方との温かくも真剣な交流がぎっしりと詰まっていて、それがすべて、あの穏やかで優しい笑顔と握手に集約されていることがわかりました。ドイル先生、日本に、わたくしたちに会いにきてくださって、本当にありがとうございます。これからもますますお元気でご活躍くださいますよう、心よりお祈り申し上げます。
 最後に、企画・準備をしてくださった上智大学とソフィア会の皆様、ありがとうございました。

文/梅本純子(1982文仏・フランス文学科同窓会副会長)
写真/ソフィア会広報委員会